日本の狼

日本にはかつて2種類の狼が棲息していました。ひとつはニホンオオカミと呼ばれる小型の種で、世界中の狼は棲息する地域によってタイリクオオカミとかヨーロッパオオカミとか分類されていますが、それぞれあえて分類するほどの形態差があるわけではありません。住む地域にあわせて身体をなじませたといった感じです。しかしニホンオオカミは身体のつくりは小さく原始的で、イヌ科動物のカニクイイヌのような外見で、他とは明らかに異なっています。現存していれば狼のルーツ研究にかなり資料を提供してくれたはずですが、明治38年ごろに絶滅しました。もうひとつの種は北海道に棲息していたエゾオオカミです。こちらは世界最大級の狼で、カニス・ルプス・レックス(狼の王)という学名を持つほどであります。
*剥製なのでプロポーションはあてになりません
エゾオオカミ
ニホンオオカミ
ところでヨーロッパでは悪獣とみなされている狼は、日本では神の使いとして敬われてきました。狼を祭った神社も全国に存在しています。この違いはどこから来るのでしょうか?ヨーロッパは昔から酪農型の生活様式でした。ヨーロッパの気候は寒く(実はパリと札幌は同じ緯度)土地はやせていて日照量も少なく、農業国フランスでさえ同じ面積からとれる収高は日本の1/6〜1/15にしか過ぎません。このような条件では、そんな土壌でも育つ飼料をえさに家畜を飼って、肉にするなり乳製品を作るなりの牧畜型生活しか暮らしていける術がなかったのです。その大切な家畜を殺しにくる狼は彼らにとって最大の害獣だったのでした。一方、日本人は農耕民族でタンパク源は魚貝類から採り、牛馬の肉は食べなかったので、人間と狼が利害でぶつかることがありませんでした。それどころか田畑を荒らす猪・鹿・兎・ネズミなどを駆除してくれる狼はありがたい味方だったのです。日本人が狼を敬う心はその名前にも現れていて、けものへんに良いと書いて狼、これはすばらしいけもの・立派なけものという意味合いなのでしょう。また、おおかみという発音は伝承のなかで「大口の真神」(おおきな口の神様)と呼ばれていたのが縮まって大神→おおかみと変化したものだといわれています。しかし日本も明治に入ってしだいに西洋の肉食文化が広まり、土地開発にともなって狼の棲息地域は奪われていきました。また、北海道に進出し開拓をすすめるにあたり、酪農を取り入れた開拓民は、ヨーロッパと同じような理由から狼と衝突しはじめ、そのためエゾオオカミの方はニホンオオカミより早く明治22年ごろに絶滅しています。